3週間の東京滞在の後、京都経由で奈良へ向かう。
京都駅で速攻PCR検査を受けて陰性結果を確認してから奈良への近鉄線に乗る。
鉄道は良い。
米国の車社会に住んでいると運転は飽きるし疲れる。
運転中は音楽やポッドキャストやラジオを聴くしか出来ることが無い。
両親は共に京都府南部のケアハウスに住んでいる。後で学んだ事だが、日本では「高齢者向け介護付きマンション」というのだそうだ。他の高齢者施設やいわゆる老人ホームと異なるのは、ケアハウスの場合そこに住んでいる高齢者たちが自由に出入り出来る事で、訪問者も受け入れる。
一般の高齢者施設では、コロナの影響で今も面会謝絶、そうでなくとも予約制で15分から30分会えるだけらしい。刑務所の面接のようにプレクシグラスを隔て、手も握ることが出来ず、ただ顔を見て話をする施設もあるという。
両親がケアハウスに居る事は後日大変便利であることを実感した。
家族再会の場を奈良に決めたのは、母の認知症が進行しているのに加え、彼女の脚も弱くなってきており、近頃は外に出る時も車椅子を使うことが多くなっているのが理由だ。ケアハウスから近鉄で奈良まで一本、タクシーだと25分ほどで奈良市内に行ける。
近鉄奈良駅からタクシーで宿に着くと、家族4人がロビーで待っていた。
皆元気。
皆笑顔。
このために帰ってきたんだよ。
静かでゆったりとした宿のお部屋で話が弾む。
久々に皆が揃って素晴らしい食事を味わう。
部屋に付いている半露天風呂で寛ぐ母に話しかける。
両親が寝た後、妹、弟と三人で夜遅くまで話し込む。
朝食の間、母はカメラを手に子供達を撮っていた。
チェックアウトの時間。
母の状態を考えると家族で旅行出来るのはこれが最後だろうと思った。
それさえ納得してしまう程、この時間は貴重で充実していた。
14日間の隔離も苦にならない程、会いに来て良かったと感じた。
人よりも鹿の方が多い、静かな月曜日のお昼頃。
お義父さんは数年前に正倉院宝物展を見に来た際、あまりの人の多さに「奈良なんかもう二度と来ない」と感じたそうだが、インバウンドに汚されていない奈良を歩きながら「これだったらまた来たいな」と言っていた。
三人の子供たちに囲まれて母は楽しそうな笑顔を見せていた。
昨日の事も、今日の事も、明日になれば母は覚えていない。
「今」、「その時」が満たされていればそれでいい。
お昼過ぎ、家族と一度別れて大阪へ向かう。
これから一ヶ月、仕事をこなしながら関西で滞在する。
2021年10月 奈良市
Fujifilm X-Pro3、XF 16-80mm f/4 R OIS WR